
目次
リンパ浮腫と一般的なむくみの違いを正しく理解する
足や腕のむくみを感じたとき、「これはただのむくみなのか、それともリンパ浮腫なのか」と不安になったことはありませんか。
実は、多くの方が「むくみ」と「リンパ浮腫」を混同されていますが、この2つは原因も症状も大きく異なります。リンパ浮腫は、がん治療後の後遺症として発症することが多く、放置すると進行性の病気です。一方で、一般的なむくみは心臓や腎臓の機能、静脈の流れなど、さまざまな原因で起こります。
形成外科専門医として、私は大学病院でリンパ浮腫治療に長年携わってきました。患者さまの中には、初期症状に気づかず、症状が進行してから受診される方も少なくありません。しかし、リンパ浮腫は早期発見・早期治療が極めて重要です。
この記事では、リンパ浮腫と一般的なむくみの違い、見分け方、注意すべき初期症状について、専門医の視点から詳しく解説します。ご自身やご家族の症状を正しく理解し、適切な対応をとるための参考にしていただければ幸いです。
リンパ浮腫とは何か・・・発症のメカニズムと原因
リンパ浮腫は、リンパ管やリンパ節が損傷することで、リンパ液の流れが滞り、腕や脚にむくみが生じる病気です。
私たちの体には、血管と同じようにリンパ管が全身に張りめぐらされています。リンパ管の中を流れるリンパ液は、静脈で回収しきれなかった老廃物やタンパク質を運ぶ役割を担っています。リンパ管には所々にリンパ節があり、体に害となる物質を取り除くフィルターのような働きをしています。
リンパ浮腫の分類と発症原因
リンパ浮腫は、発症原因によって「原発性リンパ浮腫」と「続発性リンパ浮腫」に分けられます。
原発性リンパ浮腫は、生まれつきリンパ管やリンパ節に問題があるために発症します。遺伝子異常が原因の先天性や、原因がはっきりしない特発性があります。
続発性リンパ浮腫は、手術や外傷、感染症などが原因で発症します。日本では、がん治療の後遺症として発症するケースが圧倒的に多いのが特徴です。特に乳がんや婦人科がん(子宮がん・卵巣がん)の治療後に発症しやすく、女性の発症率が高くなっています。

がん治療とリンパ浮腫の関係
がん治療でリンパ浮腫を発症するリスクがある治療には、以下のようなものがあります。
- ・転移予防のためにがん近くのリンパ節を切除する手術(リンパ節郭清)
- ・放射線治療によってリンパ節・リンパ管が傷つく場合
- ・リンパ浮腫を起こしやすい一部の抗がん剤治療
乳がんや子宮がん、卵巣がんなどの治療では、転移を防ぐためにリンパ節郭清を行う場合があります。リンパ節を切除すると、リンパ液の流れが滞り、むくみが生じやすくなります。また、放射線がリンパ管に当たって機能が低下し、リンパ液の循環が悪くなることもリンパ浮腫の原因の1つです。
一度傷ついたリンパ管は正常に戻ることがなく、リンパ浮腫になると完全に治すことはできません。しかし、早い時期から適切なケアを行うことで、むくみを改善させ、良い状態を維持することが可能です。
一般的なむくみとリンパ浮腫の決定的な違い
「むくみ」は医学的には「浮腫」と呼ばれ、皮膚の下に余分な水分やタンパク質がたまり、手足や顔が腫れぼったくなる状態です。
一言で「むくみ」といっても、その原因はさまざまで、治療の方法もまったく変わります。ここでは、リンパ浮腫と他の原因によるむくみの違いを詳しく解説します。
圧痕性と非圧痕性・・・むくみを見分ける重要なポイント
むくみを見分ける上で重要なのが、「圧痕性」と「非圧痕性」という分類です。
圧痕性浮腫は、指で押すとへこみが残るむくみです。水分が皮下にたまりやすい状態で、心不全、腎不全、静脈うっ滞などが原因となります。
非圧痕性浮腫は、指で押してもへこまないむくみです。皮膚や組織が硬く変化しており、リンパ浮腫、脂肪性浮腫、甲状腺機能低下症などが原因となります。
リンパ浮腫の場合、初期は柔らかく押すと凹みますが、時間が経つと皮膚が硬くなり、押してもへこまなくなります。これは、リンパ液が皮下に長く溜まることで、皮膚や皮下脂肪が傷んでしまうためです。
心不全によるむくみとの違い
心不全は、心臓のポンプ機能が低下して全身に十分な血液を送れなくなる状態です。血液の流れが滞り、足などに水分がたまりやすくなります。
心不全によるむくみの特徴は以下の通りです。
- ・両足が同じようにむくむ(対称性)
- ・押すと凹みが残る(圧痕性)
- ・体重増加、息切れ、疲れやすさを伴う
- ・症状が夕方に悪化することが多い
一方、リンパ浮腫は片側だけに出ることが多く、手足の皮膚が厚くなるという特徴があります。

その他のむくみの原因
むくみには、リンパ浮腫や心不全以外にも多くのタイプがあります。
静脈性浮腫は、血流の滞り(静脈瘤や血栓など)が原因で、足のむくみや片足が腫れる、痛みを伴うことがあります。
腎性浮腫は、腎臓機能の低下が原因で、顔やまぶた、全身が腫れます。
薬剤性浮腫は、一部の血圧の薬や痛み止めが原因で、両足に出やすく、薬の中止で改善することもあります。
脂肪性浮腫(リポデーマ)は、脂肪の異常沈着が原因で、主に女性に見られます。太ももやお尻に左右対称に現れ、足先はむくまず、触ると痛いという特徴があります。
リンパ浮腫の初期症状と進行段階
リンパ浮腫は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。しかし、重症化させないためには、なるべく早く気付くことが重要です。
注意すべき初期症状
がん治療をした部分の近くの腕や脚に以下のような症状を感じたら、リンパ浮腫の初期症状の可能性があります。
- ・手足がだるく重く感じる
- ・部分的にむくんでいる
- ・静脈が見えにくくなる
- ・しわが見えにくくなった
- ・皮膚のつまみにくさがある
- ・痛みやしびれがある
リンパ浮腫を発症する時期はさまざまで、がん治療後すぐにむくむ方もいれば、5~10年経って症状が出る場合もあります。
上肢と下肢の初期症状の違い
上肢のリンパ浮腫における初期症状は、以下のような日常生活での変化として現れます。
- ・指輪がきつくなった
- ・腕時計のベルトを留める位置が太くなった
- ・下着の痕が残りやすくなった
- ・腕が重だるく感じる
下肢のリンパ浮腫では、足のゆびの表側をつまんでみてください。硬くてつまみにくければ、リンパ浮腫の可能性があります。これは「シュテンマー徴候」と呼ばれ、リンパ浮腫の特徴的なサインです。同時に、足のゆびの付け根に硬い横じわが刻まれていることもあります。
リンパ浮腫の病期分類
リンパ浮腫の進行度は、以下のように分類されます。
0期(潜在期)は、明らかな症状は見られませんが、既にリンパ管の機能が低下している状態です。がん治療後の方は、この段階から注意が必要です。
Ⅰ期(可逆期)は、むくみが生じますが、横になって休むと改善します。指で押すと凹みが残り、皮膚は柔らかい状態です。この段階で適切なケアを始めることが重要です。
Ⅱ期(非可逆期)は、むくみを押すと痕が残りますが、徐々に皮膚が硬くなり始めます。Ⅱ期後期になると、皮膚が硬くなり、押しても痕が残らなくなります。この段階に入ると回復は困難になるため、Ⅰ期からⅡ期に移行させないことが極めて重要です。
Ⅲ期(象皮症)は、皮下に脂肪が沈着し、皮膚が厚くなります。象のように硬くなる症状を象皮症と呼び、蜂窩織炎やリンパ漏を起こしやすくなります。治療も難しい状態です。
リンパ浮腫の合併症・・・蜂窩織炎に注意
リンパ浮腫の症状でもっとも厄介なのが「蜂窩織炎」です。
蜂窩織炎は、皮下にたまったリンパ液が炎症反応を引き起こし、赤味や痛み、熱を発する状態です。傷や虫刺され、免疫力低下などが原因となって細菌感染が引き起こされることで発症します。
蜂窩織炎の症状
蜂窩織炎を発症すると、以下のような症状が現れます。
- ・赤い斑点
- ・皮膚の広範囲な赤み
- ・かゆみ
- ・ピリピリした痛み
- ・38℃以上の高熱
赤味の症状はさまざまで、ぽつぽつができたり、地図のようになったり、面として全体的に赤く腫れてきたりします。また、赤いぽつぽつが白ニキビのように膿を持つこともあります。
蜂窩織炎の対処法
蜂窩織炎を発症したら、まずは安静にして患部を冷やしましょう。また、リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法などの治療は一時休止します。
治療には抗生剤が用いられることもあり、赤味や熱感は1~2週間で落ち着くことが多いです。しかし、その後数カ月にわたり浮腫の悪化した状態が持続することがあります。
異変を感じたら、すぐに医療機関に相談することが大切です。

リンパ浮腫の早期発見とセルフチェック方法
リンパ浮腫は一度発症すると徐々に進行するという特徴がありますが、症状に早く気付き、適切なケアを続けることで、悪化を防ぐことが可能です。
自分のむくみやすい場所を知っておく
リンパ浮腫の初期徴候を見付けるために、セルフチェックを習慣にしましょう。
初期に浮腫が発症しやすい部位は、患側の上腕、前腕内側、患側の後腋部です。症状を感じる部位とその部位の左右対照にある部分を摘み上げて、患側の盛り上がった部分だけにしわができない場合は、その部分がむくんでいると分かります。
特に患部の後腋部は自分では気付きにくいため、「手術した方の肩が急にこるようになった」「腕が重だるくて、上がりにくくなった」「背中が重い」などと感じたら、身近な人に見てもらい、担当の医師や看護師に相談しましょう。
むくみやすい場所の太さを測っておく
リンパ浮腫に気付くために、腕と脚の周囲を測定しておくことも推奨されています。手術前後での比較や、定期的に左右差を調べることで早期発見、増悪・改善の指標にも役立ちます。
具体的な測定部位は以下の通りです。
- ・手のひら
- ・手首
- ・ひじから手先側5cm
- ・ひじ上10cm
- ・ひざから足先側5cm
- ・ひざ上10cm
- ・脚の付け根
- ・足の甲
- ・足首
両側四肢のいずれかの部位で2cm以上の左右差が出れば、臨床的に意味のある差であるとされています。2cm以上の差がみられた場合は、医療機関に相談しましょう。より正確に確認するために、同じ時間帯に同じ部位を測ることが大切です。
肌の状態を確認する
リンパ浮腫が進行すると、皮膚の状態にも変化が現れます。
- ・皮膚の乾燥
- ・皮膚の硬化
- ・皮膚が分厚くなってイボやトゲ状になる
- ・1~2mm程度の袋状のイボが生じる「リンパのう胞」
- ・リンパ液が皮膚から漏れ出してくる「リンパ漏」
このような症状が現れた場合は、リンパ浮腫が進行している可能性があります。早めに専門の医療機関を受診してください。
リンパ浮腫の予防とセルフケア
リンパ浮腫は完全に予防することが難しいものの、リスクを低減するための対策があります。
スキンケアを行う
感染を防ぐために、皮膚を清潔に保ち、保湿を行うことが重要です。リンパ浮腫は皮膚感染症のリスクが高まるため、適切なスキンケアが不可欠です。
傷口や皮膚の保護を徹底し、虫刺されや怪我を避けることが大切です。感染が起こるとリンパ浮腫が悪化するリスクがあります。
適正体重を保つ
脂肪はリンパ管を圧排してリンパの流れが停滞しやすくなることがあるので、急激に太らないようにすることが大切です。
体に負担をかけない工夫をする
がん治療後は、腕や手に過度な負荷をかけないようにすることが重要です。重い荷物を持ち上げることや激しい運動は避け、適切なリハビリテーションを行います。
一方で、適度な運動はリンパ液の循環を促進し、腫れの予防に効果的です。筋肉を使うことで、リンパ液の循環が改善されます。特に、水中運動は関節への負担が少なく、効果的です。
リンパ浮腫の治療法・・・保存的治療と外科的治療
リンパ浮腫の治療は、完全に治癒させることは難しいものの、症状を管理し、進行を抑えることが主な目的となります。
保存的治療
保存的治療は、症状を緩和し、リンパ液の流れを促進することを目的とします。
圧迫療法は、弾性スリーブや弾性包帯を使用して、リンパ液の流れを促進し、腫れを軽減します。圧迫療法はリンパ浮腫治療の基本であり、患者さまの状態に応じて個別に調整されます。
リンパドレナージは、専門の理学療法士による手技療法で、リンパ液を手動で排出するマッサージ技術です。リンパ液の流れを手助けし、腫れを軽減する効果があります。
運動療法は、リンパの流れを促進するための軽い運動です。筋肉を使うことで、リンパ液の循環が改善されます。
外科的治療
重度のリンパ浮腫の場合、外科的治療が検討されることがあります。
LVA(リンパ管静脈吻合術)は、損傷したリンパ管の流れを改善するために、リンパ液を静脈に流す手術です。当院では、国内製最高倍率の顕微鏡を使用した精密手術で、患者さまの負担を最小限にした日帰り治療を実現しています。
リンパ節移植手術は、他の部位から健康なリンパ節を移植する手術で、リンパ液の排出を改善します。
脂肪吸引は、慢性的なリンパ浮腫では脂肪組織が過剰に蓄積することがあり、これを除去するための手術が行われることがあります。
ななほしクリニックでのリンパ浮腫治療
当院では、リンパ浮腫治療に特化した多角的アプローチによる集学的治療を提供しています。
高周波エコーによるリンパ管の質的診断では、リンパ管の状態をその場で可視化し、「今はこの部分でリンパが流れにくくなっています」と画面を見ながら説明することで、患者さまご自身の症状を正しく理解していただけます。
LVA(リンパ管静脈吻合術)の日帰り手術では、国内製最高倍率の顕微鏡を使用した精密手術により、患者さまの負担を最小限にした治療を実現しています。術前術後のリンパ管の状態をエコーで可視化し、精度の高い治療を提供します。
医療用弾性着衣を用いた圧迫療法、リンパドレナージを中心とした保存的治療、他クリニックとの連携による術後ケア体制の強化など、診察から検査、手術、術後ケアまでの流れがスムーズで、生活の中で治療を進められるのが当院の魅力です。
また、形成外科手術・レーザー治療など、痛みが心配な場合は笑気麻酔を併用し、リラックスして治療を受けられる体制を整えています。
まとめ・・・早期発見と適切な治療で生活の質を守る
リンパ浮腫と一般的なむくみの違いを正しく理解することは、早期発見と適切な治療につながります。
リンパ浮腫は、がん治療後の後遺症として発症することが多く、放置すると進行性の病気です。しかし、初期症状に早く気付き、セルフケアを継続することで、浮腫の進行を抑えることができます。
「手足がだるく重く感じる」「部分的にむくんでいる」「皮膚のつまみにくさがある」といった初期症状を感じたら、放置せずに専門の医療機関へ相談しましょう。特に、がん治療でリンパ節を切除したり、放射線治療を受けたりした方は、発症のリスクがあると認識しておくことが大切です。
地域の皆さまに寄り添い、すべての患者さまの生活の質(QOL)を向上させることが私たちの使命です。リンパ浮腫は早期発見・適切な治療が重要です。専門性を活かし、最適な治療をご提案いたします。
もし同じように困っている方がいるなら、一度相談してみる価値はあると思います。ななほしクリニックでは、リンパ浮腫に悩む患者さまに安心していただける、専門性とやさしさのある治療を提供しています。
お気軽にご相談ください。詳細は当院の公式サイトでご確認いただけます。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




