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リンパ浮腫の診断に欠かせない検査とは
リンパ浮腫の治療を始める前に、最も重要なのが正確な診断です。
がん治療後に腕や脚のむくみが気になる方、あるいはすでにリンパ浮腫と診断されている方にとって、「自分のリンパの状態がどうなっているのか」を知ることは、適切な治療方針を決めるための第一歩となります。
リンパ浮腫の検査には、問診や触診といった基本的な診察に加えて、リンパ管の状態を詳しく調べるための画像検査がいくつか存在します。それぞれの検査には特徴があり、患者さまの状態や治療方針に応じて使い分けられています。
このページでは、リンパ浮腫の診断に用いられる主な検査方法について、形成外科専門医の立場から詳しく解説いたします。
問診・触診による初期評価
リンパ浮腫の診断は、まず問診と触診から始まります。
問診では、がん治療の既往歴、手術でリンパ節を切除したかどうか、むくみが出始めた時期、症状の経過などを詳しくお伺いします。触診では、むくみの範囲や硬さ、皮膚の状態を確認し、リンパ浮腫の可能性を評価します。

問診や触診である程度はリンパ浮腫と診断できますが、リンパ系障害の範囲を詳細に判断することはできません。そのため、より正確な診断と治療方針の決定には、画像検査が必要となります。
また、むくみの原因がリンパ浮腫以外の疾患である可能性も考慮する必要があります。静脈の病気、心臓や腎臓の疾患、内分泌疾患などでもむくみは生じるため、これらの疾患を除外するための検査も重要です。
ICG蛍光リンパ管造影検査の特徴
ICG検査とは何でしょうか?
ICG(インドシアニングリーン)蛍光リンパ管造影検査は、リンパ浮腫の診断において非常に重要な役割を果たす検査です。この検査では、ICGという緑色の薬液を手や足の指の間に注射し、特殊な赤外線カメラでリンパ管の流れを観察します。
ICGはリンパ管に取り込まれると、赤外線を当てることで蛍光を発します。この蛍光をカメラで捉えることで、皮膚の浅いところを流れるリンパ管やリンパ液の漏れを視覚的に確認できるのです。

ICG検査で分かること
ICG検査では、上肢は5つ、下肢は4つのリンパの道(リンパ管の経路)の状態を評価できます。正常なリンパ管は線状に見え、むくみの部位では雲状や銀河のように見えます。
この検査により、どのリンパの道が障害されているのか、どの範囲にリンパ液の漏れが生じているのかを予想できます。また、リンパ浮腫の早期発見にも有用で、病期の進行に伴い正常な道が消失していく様子も確認できます。
ICG検査の重症度分類
ICG検査では、リンパ液の漏れ方のパターンによって重症度を分類します。正常な状態ではLinear(線状)パターンとして観察されますが、リンパ浮腫が進行すると、Splash(飛沫状)、Stardust(星屑状)、Diffuse(びまん性)と変化していきます。
この重症度分類は、保存療法と手術療法のどちらが適しているかを判断する上で、最も大切な情報となります。
ICG検査の実際の流れ
検査は比較的簡単に行えます。手の場合は5か所、足の場合は4か所にICGを注射し、赤外線カメラで観察します。検査時間は30分程度で、患者さまへの負担も少ない検査です。
ただし、ヨードアレルギーのある方は検査を受けられません。また、現時点では保険適応外の検査となっています。
リンパシンチグラフィ検査について
リンパシンチグラフィは、リンパ浮腫の標準的な診断検査として世界的に用いられています。
この検査では、放射能をもつ薬剤(アイソトープ)を手や足に注射し、それがリンパ管を流れる様子をシンチカメラで撮影します。正常なリンパ管は線状に、むくみの場所は雲状に見えます。

リンパシンチグラフィの利点
リンパシンチグラフィは、上肢や下肢全体のリンパの流れの傾向をつかむのに適しています。リンパ液がどのように流れているか、どこで滞っているかを全体的に把握できるため、リンパ浮腫の確定診断として用いられています。
また、SPECT/CTという技術を組み合わせることで、より詳細な三次元的な評価も可能になっています。
リンパシンチグラフィの注意点
検査には放射性物質を使用するため、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方は受けられません。また、検査後は一定時間、授乳を控える必要がある場合もあります。
検査時間は数時間かかることがあり、複数回の撮影が必要になることもあります。
超音波検査とその役割
超音波検査は、被爆などの体への負担なしに、皮膚の下に溜まったリンパ液や組織の変性を確認できる検査です。
リアルタイムで観察できるため、圧迫療法やリンパドレナージ、手術治療の前後で評価することで、うっ滞したリンパ液の状況変化を確認することも可能です。
超音波検査の特徴
超音波検査は、非侵襲的で繰り返し行える点が大きな利点です。リンパ液の貯留だけでなく、皮膚や皮下組織の厚さ、組織の性状変化なども評価できます。
また、静脈系の異常の有無も確認できるため、むくみの原因がリンパ系だけでなく静脈系にもあるかどうかを判断する上でも重要です。
治療効果の判定にも有用
超音波検査は、治療の効果判定にも活用されます。保存療法や手術療法の前後で皮下組織の厚さを測定することで、治療の効果を客観的に評価できます。
定期的に検査を行うことで、リンパ浮腫の進行状況を把握し、治療方針の調整にも役立てることができます。
その他の画像検査
リンパ浮腫の診断には、上記以外にもいくつかの画像検査が用いられることがあります。

MRリンパ管造影
MRI(磁気共鳴画像)を用いたリンパ管造影も、リンパ循環の評価に有用な検査です。造影剤を使用せずにリンパ管を描出できる場合もあり、放射線被曝の心配もありません。
リンパ管の走行や形態を詳細に観察できるため、手術計画を立てる際にも役立ちます。
CT検査
CT検査は、リンパ浮腫の診断そのものよりも、他の疾患の除外や合併症の評価に用いられることが多い検査です。
がんの再発や転移の有無、深部静脈血栓症の有無などを確認する際に実施されます。
検査結果に基づく治療方針の決定
これらの検査結果を総合的に評価することで、一人ひとりの患者さまに最適な治療方針を決定します。
リンパ浮腫の重症度、リンパ管の残存機能、患者さまの年齢や生活スタイル、セルフケアの実施可能性などを考慮し、保存療法(複合的理学療法)と手術療法のどちらが適しているか、あるいは両者を組み合わせるかを検討します。
保存療法が適している場合
超音波検査で比較的軽度のリンパ液の漏れが確認され、リンパ管の機能がある程度保たれている場合は、まず保存療法から開始することが多くなります。
スキンケア、リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法を組み合わせた複合的理学療法により、むくみの改善と維持を目指します。
手術療法を検討する場合
超音波検査でリンパ管が拡張した状態に観察され、機能が残存している場合は、リンパ管静脈吻合術などの手術療法が効果的な可能性があります。
手術前に超音波検査を行うことで、吻合に適したリンパ管の位置を正確に把握し、手術の成功率を高めることができます。
検査を受ける際の注意点
リンパ浮腫の検査を受ける際には、いくつか注意していただきたい点があります。
検査前の準備
検査の種類によっては、事前の準備が必要な場合があります。リンパシンチグラフィでは、妊娠の可能性がないことを確認する必要があります。ICG検査では、ヨードアレルギーの有無を事前に申告してください。
また、これまでの治療経過や現在使用している弾性着衣の情報なども、診察時にお伝えいただくと診断の参考になります。
検査後の過ごし方
リンパシンチグラフィ後は、放射性物質が体外に排出されるまで、一定の注意事項を守っていただく必要があります。詳しくは検査を実施する医療機関の指示に従ってください。
まとめ:適切な検査が治療の第一歩
リンパ浮腫の診断には、問診・触診に加えて、ICG蛍光リンパ管造影検査、リンパシンチグラフィ、超音波検査など、複数の検査を組み合わせることが重要です。
特にICG検査は、リンパ管の機能を詳細に評価でき、重症度分類や治療方針の決定に欠かせない検査となっています。自分のリンパの状態を視覚的に確認できることで、患者さま自身も病態を理解しやすくなり、セルフケアへの意欲向上にもつながります。
リンパ浮腫は完治が難しい疾患ですが、適切な検査による正確な診断と、それに基づく治療により、症状の改善と良好な状態の維持が可能です。
むくみが気になる方、すでにリンパ浮腫と診断されている方は、専門的な検査を受けることで、より効果的な治療につながる可能性があります。お一人で悩まず、リンパ浮腫の診療経験が豊富な医療機関にご相談ください。
ななほしクリニックでは、リンパ浮腫の診断から治療まで、総合的なサポートを提供しております。検査についてのご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




