

リンパ浮腫を早期発見するために
リンパ浮腫は、がん治療後に生じる可能性のある合併症のひとつです。
手術や放射線治療によってリンパ節が損傷されると、リンパ液の流れが滞り、腕や脚にむくみが現れることがあります。発症のタイミングは人それぞれで、治療直後に症状が出る方もいれば、10年以上経ってから発症する方もいらっしゃいます。
リンパ浮腫は完治が難しい病気ですが、早期に発見して適切な対処を始めることで、症状の進行を抑え、日常生活への影響を最小限に留めることができます。そのため、ご自身の体の変化に気づくためのセルフチェックが非常に重要です。
この記事では、リンパ浮腫を早期に発見するための具体的なセルフチェック方法と、気になる症状があるときの対処法について、形成外科専門医の視点からわかりやすく解説します。
リンパ浮腫とむくみの違い
「むくみ」と聞くと、多くの方は一時的なものを想像されるかもしれません。
長時間立ち仕事をした後や、塩分の多い食事をした翌朝に足がむくむことは、誰にでも起こりうる現象です。しかし、リンパ浮腫は一過性のむくみとは異なります。
リンパ浮腫は、リンパ系の機能不全によって引き起こされる慢性的な病態です。リンパ液は体内の余分な水分や老廃物を回収し、静脈へ戻す役割を担っています。がん治療でリンパ節を切除したり、放射線治療でリンパ管が損傷したりすると、この流れが妨げられてしまいます。
一般的なむくみは、休息や脚を高くすることで改善しますが、リンパ浮腫は放置すると徐々に悪化し、皮膚が硬くなったり、関節の動きが制限されたりする可能性があります。自然治癒することはなく、進行性の病気であるため、早期発見と継続的な管理が不可欠です。
自宅でできる10の確認項目
リンパ浮腫の早期発見には、日常的なセルフチェックが欠かせません。
ここでは、ご自宅で簡単に実践できる10の確認項目をご紹介します。これらのチェックを習慣化することで、わずかな体の変化にも気づきやすくなります。
1. 治療前の周径測定を記録する
がん治療を受ける前に、腕や脚の太さを測定しておくことをおすすめします。
治療後に定期的に同じ部位を測定することで、むくみの有無を客観的に判断できるようになります。測定する際は、「肘の上から10cm」「膝の上から10cm」というように、いつも同じ位置で測ることが大切です。元々左右で太さに差がある方も多いため、基準となる数値を記録しておくことが重要です。
2. 朝夕2回の測定を習慣にする
時間帯によって、手足の太さは変化します。
より正確な変化を把握するためには、毎日同じ時間帯、できれば朝と夕方の2回測定することが理想的です。朝は起床後、夕方は夕食前など、生活リズムの中で決まったタイミングを設定すると続けやすくなります。
3. むくみやすい部位を知る
リンパ浮腫が起こりやすい部位は、治療を受けた場所によって異なります。
乳がん治療で腋窩リンパ節を切除された方は、二の腕の内側、肩、手の甲などにむくみが現れやすい傾向があります。一方、子宮がんや卵巣がんなどの婦人科がん治療を受けられた方は、足の付け根、内もも、下腹部、足の甲などに症状が出やすいです。
初期症状は、これらの部位に違和感として現れることが多いため、日頃から意識的に観察することが大切です。
4. 皮膚を押して痕の残り方を確認する
皮膚を指で数秒間押してみてください。
押した後に痕が残り、なかなか元に戻らない場合は、むくみの兆候かもしれません。リンパ浮腫の初期では、皮膚を押すと凹みができ、ゆっくりと元に戻る特徴があります。進行すると、皮膚が硬くなり、押しても凹まなくなることもあります。
5. 静脈の見え方をチェックする
むくみが生じると、皮膚表面の静脈が見えにくくなることがあります。
以前は見えていた手の甲や足の甲の血管が、最近見えにくくなったと感じたら、むくみが始まっている可能性があります。鏡を使って定期的に確認する習慣をつけると良いでしょう。
6. だるさや重さの感覚に注意する
数値として測れる変化だけでなく、感覚的な変化も重要なサインです。
腕や脚に「重い」「だるい」といった感覚が続く場合、リンパ液の滞留が始まっている可能性があります。特に、片側だけにこうした症状が現れる場合は注意が必要です。日常生活の中で、以前と比べて疲れやすくなったと感じることも、早期のサインかもしれません。
7. 皮膚の硬さを触って確認する
リンパ浮腫が進行すると、皮膚が硬くなることがあります。
反対側の腕や脚と比べて、皮膚の柔らかさに違いがないか、定期的に触って確認してみてください。初期には気づきにくい変化ですが、習慣的にチェックすることで、わずかな違いにも気づけるようになります。
8. 関節の動きやすさを確認する
むくみによって関節の動きが制限されることがあります。
肘や膝、手首、足首などの関節が曲げにくくなったり、動かすときに違和感を覚えたりする場合は、リンパ浮腫の進行を示唆している可能性があります。毎日のストレッチや軽い運動の際に、関節の動きやすさを意識してみてください。
9. 衣服や装飾品のきつさをチェックする
日常的に身につけている衣服や装飾品の感覚も、重要な指標になります。
いつも着ている服の袖や裾がきつく感じたり、指輪や腕時計が入りにくくなったりした場合は、むくみが生じている可能性があります。こうした小さな変化を見逃さないことが、早期発見につながります。
10. 左右の太さを比較する
鏡の前に立ち、左右の腕や脚を見比べてみてください。
明らかに片側だけが太く見える場合や、左右の形が異なって見える場合は、リンパ浮腫の可能性があります。写真を撮って記録しておくと、時間経過による変化がわかりやすくなります。

気になる症状があるときの対処法
セルフチェックで気になる症状を見つけたら、どうすれば良いのでしょうか。
まず大切なのは、自己判断で放置しないことです。リンパ浮腫は進行性の病気であり、早期に適切な対応を始めることで、症状の悪化を防ぐことができます。
すぐに医療機関を受診すべき症状
以下のような症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- 片側の腕や脚が急に腫れた
- 皮膚が赤くなり、熱を持っている
- 痛みや圧痛がある
- 皮膚に水疱や傷ができている
- 発熱がある
これらの症状は、蜂窩織炎などの感染症を合併している可能性があります。感染症はリンパ浮腫を急速に悪化させる要因となるため、早急な治療が必要です。
日常生活でできる対処法
軽度のむくみや違和感がある段階では、日常生活の中でできる対処法があります。
まず、患部を心臓より高い位置に保つことを心がけてください。座っているときは足を台の上に乗せたり、寝るときは枕やクッションで脚を高くしたりすることで、リンパ液の流れを促進できます。
また、適度な運動も効果的です。筋肉を動かすことで、リンパ液の循環が改善されます。ただし、激しい運動や重い荷物を持つことは避け、無理のない範囲で体を動かすことが大切です。
スキンケアも重要な対処法のひとつです。皮膚を清潔に保ち、保湿を心がけることで、感染症のリスクを減らすことができます。虫刺されや小さな傷も、リンパ浮腫がある部位では感染のきっかけになりやすいため、注意が必要です。
専門的な治療が必要な場合
セルフケアだけでは改善が見られない場合や、症状が進行している場合は、専門的な治療が必要になります。
リンパ浮腫の治療には、複合的理学療法と呼ばれる方法が用いられます。これは、スキンケア、医療徒手リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法を組み合わせた治療法です。専門の医療機関では、患者さまの状態に応じて、これらの治療を適切に組み合わせて提供しています。
重度のリンパ浮腫に対しては、リンパ管細静脈吻合手術などの外科的治療が選択肢となることもあります。

受診のタイミングと診療科の選び方
「いつ受診すれば良いのか」というご質問をよくいただきます。
基本的には、セルフチェックで気になる変化を感じたら、早めに相談することをおすすめします。「これくらいなら大丈夫」と思って様子を見ているうちに、症状が進行してしまうケースも少なくありません。
受診を検討すべきタイミング
以下のような状況では、受診を検討してください。
- 腕や脚の周径が2cm以上増加した
- むくみが1週間以上続いている
- だるさや重さが日常生活に支障をきたしている
- 皮膚の硬さや色の変化がある
- 関節の動きに制限を感じる
これらの症状は、リンパ浮腫が進行している可能性を示唆しています。早期に専門的な評価を受けることで、適切な治療を開始できます。
どの診療科を受診すべきか
リンパ浮腫の診療は、形成外科が専門としている領域です。
形成外科では、リンパ浮腫の診断から保存的治療、必要に応じて外科的治療まで、包括的な対応が可能です。特に、リンパ浮腫の専門外来を設けている医療機関では、より専門的な評価と治療を受けることができます。
がん治療を受けた病院に、リンパ浮腫外来や形成外科がある場合は、まずそちらに相談されることをおすすめします。治療経過を把握している医療機関であれば、より適切な対応が期待できます。
当院「ななほしクリニック」でも、リンパ浮腫の診療を行っております。セルフチェックで気になる症状がある方、どこに相談すれば良いか迷っている方は、お気軽にご相談ください。
リンパ浮腫の予防と生活上の注意点
リンパ浮腫のリスクがある方は、日常生活の中で予防を意識することが大切です。
完全に予防することは難しいものの、リスクを減らすための対策はいくつかあります。これらを習慣化することで、発症のリスクを低減し、仮に発症した場合でも症状を軽く抑えることが期待できます。
体重管理の重要性
肥満は、リンパ浮腫のリスク要因のひとつです。
体重が増加すると、リンパ系への負担が大きくなり、リンパ液の流れが滞りやすくなります。適正体重を維持することは、リンパ浮腫の予防において非常に重要です。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、急激な体重増加を避けるようにしましょう。
締め付けの強い衣服を避ける
きつい衣服や下着は、リンパ液の流れを妨げる可能性があります。
特に、腕や脚、鼠径部を強く締め付けるような衣服は避けてください。ゆったりとした、体を圧迫しない衣服を選ぶことが大切です。ただし、医療用の弾性スリーブや弾性ストッキングは、適切に使用することでリンパ浮腫の予防や症状の管理に役立ちます。
感染予防の徹底
皮膚の感染症は、リンパ浮腫を悪化させる大きな要因です。
日頃から皮膚を清潔に保ち、保湿を心がけてください。虫刺されや小さな傷にも注意が必要です。ガーデニングや料理など、怪我をしやすい作業をする際は、手袋を着用するなどの対策を取りましょう。万が一、傷ができた場合は、すぐに消毒し、清潔に保つことが大切です。
適度な運動を続ける
運動は、リンパ液の循環を促進する効果があります。
ウォーキングや水泳など、無理のない範囲で体を動かすことをおすすめします。筋肉を使うことで、リンパ管が刺激され、リンパ液の流れが改善されます。ただし、激しい運動や重い荷物を持つことは避け、疲れを感じたら休息を取ることが大切です。
長時間の同じ姿勢を避ける
長時間の立ち仕事や座り仕事は、リンパ液の滞留を招きやすくなります。
こまめに姿勢を変えたり、軽いストレッチをしたりすることで、リンパ液の流れを促進できます。デスクワークの方は、1時間に1回は立ち上がって体を動かすことを心がけてください。

まとめ
リンパ浮腫は、がん治療後に生じる可能性のある合併症ですが、早期発見と適切な対処によって、症状の進行を抑えることができます。
この記事でご紹介した10のセルフチェック項目を、日常生活の中で習慣化してください。治療前の周径測定、定期的な観察、わずかな変化への気づきが、早期発見の鍵となります。
気になる症状を見つけたら、自己判断で放置せず、早めに医療機関を受診することが大切です。リンパ浮腫は進行性の病気であり、早期に適切な治療を開始することで、より良い予後が期待できます。
また、日常生活での予防策も重要です。体重管理、適度な運動、スキンケア、締め付けの少ない衣服の選択など、できることから取り組んでいきましょう。
リンパ浮腫について不安や疑問がある方、セルフチェックで気になる症状を見つけた方は、どうぞお気軽にご相談ください。ななほしクリニックでは、リンパ浮腫の診療を専門的に行っており、患者さまお一人おひとりの状態に応じた適切な治療とサポートを提供しております。
ご自身の体の変化に敏感になり、早期発見・早期対処を心がけることで、リンパ浮腫と上手に付き合いながら、充実した日常生活を送ることができます。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




