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「このシミ、レーザーで消せるのかな?」
そう思って美容クリニックを訪れたものの、「これは肝斑なので、レーザーは避けた方がいいですね」と言われた経験はありませんか?
肝斑は30代以降の女性に多く見られる色素沈着で、両頬に左右対称に現れることが特徴です。一般的なシミと見た目が似ているため、自己判断で間違った治療を選んでしまうと、かえって症状が悪化してしまうこともあります。
実際に、肝斑にレーザー治療を行うと、メラノサイト(色素細胞)がさらに活性化し、炎症が悪化して色素がより沈着してしまう悪循環に陥ることがあるのです。しかし、すべてのレーザーが肝斑に悪影響を与えるわけではありません。適切な診断と治療法を選択すれば、肝斑は改善できる疾患です。
この記事では、形成外科専門医として多くの肌トラブルを診てきた経験をもとに、肝斑とシミの正確な見分け方、レーザー治療が悪化につながるケース、そして2026年最新の適切な治療法について詳しく解説します。
肝斑とは?シミとの違いを理解する
肝斑は30歳以降に出現する両頬を中心とした色素沈着です。
比較的広範囲に広がるくすみのような褐色のシミで、一般的にイメージする「シミ」である日光黒子とは異なる特徴を持っています。日光黒子と思ってご来院いただいた方が、実は肝斑だったというケースは少なくありません。

肝斑の主な特徴は以下の通りです。
- 30歳前後から両側の頬に現れる色素斑で、頬骨部、前額、鼻下に好発する
- 褐色で比較的均一なびまん性の色素斑である(網目状になっている場合もある)
- 症状に季節的変動があり、夏季に増悪する傾向がある
- 女性に多く見られる
- 目の周囲、髪の生え際、眉毛部には色素斑がない
- 70~80歳以降、化粧をしなくなる年齢から軽快する傾向がある
一方、一般的なシミ(日光黒子)は、線で引けるようなはっきりとした境界があります。それに対し肝斑は境界が曖昧で、ぼやーっとしています。また広範囲になることが多く、地図状に広がると表現されることもあります。
肝斑が起こるメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、病理学的には足を伸ばしている異常なメラノサイト(色素を作る細胞)や、日光弾性線維症(日光による弾力のなくなった肌に見られる変化)が特徴的に見られます。
肝斑の原因として考えられる要因
肝斑の発症には複数の要因が関連していると考えられています。
主な原因として挙げられるのは以下の4点です。
- 日光:紫外線による影響
- 炎症:皮膚への刺激や摩擦
- 女性ホルモン:ホルモンバランスの変化
- 遺伝:家族歴や体質
特に注目すべきは、摩擦や刺激などによる皮膚の「炎症」です。肝斑は刺激にとても弱く、知らず知らずのうちに与えている顔の摩擦が大きな原因となっているのです。
女性の場合は、妊娠や経口避妊薬の使用、更年期などでホルモンバランスが変化することで発生することもあります。ホルモンの影響を強く受けるため、肝斑の濃さが変動することもあるのです。
肝斑とシミの正確な見分け方
肝斑とシミを見分けることは、適切な治療を選択するために非常に重要です。
プロでも見逃すことがある肝斑ですが、見分けるにはいくつかのポイントがあります。まず、色と形の違いに注目してみましょう。
色と形状による見分け方
シミ(日光黒子)の場合、色が濃く、輪郭がはっきりしていることが多いです。小さな斑点状のものから大きなものまで様々な形があります。
一方、肝斑は色が比較的淡く、境界がぼんやりしており、広範囲にわたって現れることが多いのが特徴です。
典型的な肝斑では、両側頬部の色素斑が目の周囲を避けて存在しています。この「目の周囲が抜ける」という特徴は、肝斑を見分ける重要なポイントです。
発生部位による見分け方
シミは日光に多くさらされる部位(頬、額、手の甲など)に現れ、左右対称でないことが多いです。
対して肝斑は、両頬に左右対称に現れることが特徴的です。頬骨の上や額、鼻の下などにも広がる場合があります。摩擦や紫外線で悪化しやすいため、その影響を受けやすい部位にできると考えられています。
専門医による診断の重要性
自己判断で治療を進めると、症状を悪化させる可能性があるため、専門医の診断を受けることが非常に重要です。
診察では、視診・問診・ダーモスコピーなどを用いて、悪性疾患を含む他の疾患の可能性を除外していきます。「いつ頃から出ているか」「紫外線を浴びたか」「妊娠・出産経験があるか」「使用中のスキンケアや薬の有無」など丁寧に調べ、これらの情報をもとに皮膚科医が肉眼で慎重に診察することで、肝斑とシミを適切に診断し、最適な治療につなげることができるのです。
また、画像診断装置を用いてシミをよりはっきりと画像にして評価することもあります。自分でも画像を見て肌を客観的に判断でき、医師やスタッフと同じ画像で見ることでお悩みを共有することができます。
なぜ肝斑はレーザーで悪化するのか?
「肝斑にレーザーは禁忌」と聞いたことがある方も多いでしょう。
実際に、肝斑にレーザー治療を行うと悪化することがあります。その理由を理解することが、適切な治療選択の第一歩です。
高出力レーザーが肝斑を悪化させるメカニズム
肝斑の原因の一つとして、摩擦や刺激などによる皮膚の「炎症」が挙げられます。肝斑は刺激にとても弱く、強いレーザーの刺激は逆に肝斑を濃くしてしまうことがあるのです。
高出力Qスイッチレーザーなど、従来よりシミ治療に用いられることが多いレーザーは、実は肝斑への照射は禁忌とされています。細胞の破壊を伴うため、これが肝斑を悪化させてしまうのです。
肝斑にレーザーを当てると、メラノサイト(色素細胞)がさらに活性化し、炎症が悪化して色素がより沈着し、肝斑が濃くなるという悪循環に陥りかねません。もし、シミだと思って肝斑にレーザーを何度も照射してしまうと、肌に負担がかかりすぎてしまい、悪化することもあるのです。
光治療(IPL)も注意が必要
フォトフェイシャルなどを含む光治療(IPL)もシミ治療によく使われますが、こちらも肝斑には基本的には注意が必要です。
光治療を何度も継続しているうちに頬のシミが濃くなってきた場合、もしかすると頬に肝斑が出ているのかもしれません。いわゆる通常のシミやそばかすには効果がありますので、自分のシミが何なのかよく判断してから治療を受けることが大切です。
ただし、IPLは設定を調整することで肝斑に効果を発揮する場合もあります。通常の照射設定では肝斑は悪化しますが、適切な設定で使用すれば治療の選択肢となり得るのです。
すべてのレーザーが悪影響を与えるわけではない
重要なのは、すべてのレーザーが肝斑に悪影響を与えるわけではないということです。
レーザー治療の中で肝斑への選択肢といえるのが「トーニング」です。ピコトーニングやレーザートーニングと呼ばれる治療法は、非常に短いパルス幅で低エネルギー照射をしていく方法なので、条件によっては肝斑の治療として選択肢のひとつとなります。
ただし、「肝斑治療=トーニング」ではありません。実はトーニングが効く肝斑と効かない肝斑が存在するのです。そのため、専門医による正確な診断と、個々の肝斑の状態に応じた治療法の選択が不可欠なのです。
肝斑の適切な治療法【2026年最新】
肝斑の治療には2本の柱があります。
それは「今ある色素をなくすこと」と「色素をつくらせないこと」です。この2つのアプローチを組み合わせることで、効果的な治療が可能になります。
内服療法:トラネキサム酸が第一選択
トラネキサム酸はあらゆる研究で肝斑に対して有効性が確認されています。特に飲み薬が一番効果が高いので非常におすすめです。
悪化させる心配もなく、比較的副作用も少ないお薬なので、肝斑治療の第一選択として推奨されます。500mg~1000mgを3~6ヶ月の内服が推奨されています。
さらに肌の老化を抑えてくれるビタミンC(点滴も有効)やビタミンEも併用することが多いです。これらのビタミン類は抗酸化作用や血行促進作用があり、肝斑治療をサポートします。
ただし、妊婦、授乳婦、他のお薬を内服中の方、血栓症の既往がある方、腎障害がある方などは内服できない、または注意が必要です。副作用として、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、胸やけなどが報告されています。
外用療法:ハイドロキノンとレチノール系製剤
ハイドロキノンは医療用の美白剤です。
一般的に肝斑治療で多く用いられるハイドロキノンは4%以上で、お化粧品に含まれるハイドロキノンとは濃度が異なります。このハイドロキノンとレチノール(ビタミンA)系製剤を一緒に使用する方法は、肝斑治療のゴールドスタンダードとされており効果が高いです。
また最近ではトラネキサム酸の外用も効果があると報告が増えており、重ねて使用することもおすすめです。アゼライン酸(AZA)やアスコルビン酸(ビタミンC)といった成分は治療の補助として一定の効果があるため、化粧品の中にうまく取り入れることも有効です。
レーザートーニング:条件によっては有効
レーザートーニングは、低出力のレーザーを顔全体に照射する治療法です。
シミだけでなく肌全体のトーンアップなどの効果も期待できます。ただし、複数回の施術が必要なのが特徴です。日本の美容外科および美容皮膚科学会が合同で作成している美容医療の指針にも「条件によっては行うことを推奨する」とあります。
レーザートーニングを中止したとたんに肝斑が戻ってきて、止められなくなっているケースや、トーニングをやり続けて顔がまだらになっているケース、肌の色が薄くなると同時に部分的に白抜けが起こっているケースもあります。そのため、レーザートーニングを選択する際は、慎重な判断が必要です。
光治療(IPL):適切な設定で使用
多くのクリニックでは肝斑の治療にフォトフェイシャルを使いません。悪化するという理由です。実際に通常の照射設定では肝斑は悪化します。
ところが、このフォトフェイシャル、設定を調整することで肝斑に効くのです。肝斑の状態、日光黒子などの合併状況、患者様本人のライフスタイルに合わせて適切な治療を提案することが重要です。
その他の治療法:ピーリングやイオン導入
ケミカルピーリングやイオン導入、エレクトロポレーションなども肝斑治療の補助として効果的です。
これらの治療法は、肌のターンオーバーを促進したり、美白成分の浸透を高めたりすることで、肝斑の改善をサポートします。内服療法や外用療法と組み合わせることで、より効果が期待できます。
治療の組み合わせが重要
肝斑の治療方法は一つではありません。
肝斑の状態、日光黒子などの合併状況、患者様本人のライフスタイルに合わせて適切な治療を提案することが大切です。多くの場合、内服療法、外用療法、そして必要に応じてレーザーや光治療を組み合わせることで、最良の結果が得られます。
肝斑は1回の照射で消えるシミ治療とは異なります。時間をかけて「皮膚のリモデリング」を起こすことが治療の根幹です。焦らず、継続的に治療を行うことが重要なのです。
治療後のスキンケアと再発予防
肝斑の治療が成功しても、適切なアフターケアを怠ると再発する可能性があります。
治療後のスキンケアと日常生活での注意点を理解し、実践することが、美しい肌を維持するために不可欠です。
紫外線対策は最重要
肝斑の原因の一つは紫外線です。
症状に季節的変動があり、夏季に増悪する傾向があることからも、紫外線対策の重要性がわかります。日焼け止めは毎日使用し、帽子や日傘なども活用しましょう。SPF30以上、PA+++以上の日焼け止めを選び、2~3時間ごとに塗り直すことが理想的です。
低摩擦ケアを心がける
肝斑の大きな原因は、知らず知らずのうちに与えている顔の摩擦です。
洗顔時の過剰な摩擦や、メイクのこすりすぎなどの物理的な刺激が肝斑を悪化させることがあります。洗顔は優しく泡で洗い、タオルで拭く際もこすらず押さえるように水分を取りましょう。スキンケア製品を塗る際も、強くこすらず、優しく押さえるように塗布することが大切です。
美白化粧品の継続使用
治療後も美白成分を含むスキンケア製品の使用を継続することが推奨されます。
ハイドロキノンやビタミンC誘導体などの美白成分を含むスキンケア商品を使用することが効果的です。ただし、刺激の少ない製品を選ぶことが重要です。医療機関専売品のスキンケアアイテムを使用することもおすすめです。
生活習慣の見直し
ホルモンバランスの乱れも肝斑の原因となります。
十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動など、健康的な生活習慣を心がけることで、ホルモンバランスを整え、肝斑の再発を防ぐことができます。ストレス管理も重要です。
定期的な診察
治療後も定期的に専門医の診察を受けることをおすすめします。
肝斑の状態を確認し、必要に応じて治療を調整することで、長期的に良好な状態を維持することができます。また、新たなシミや肌トラブルの早期発見にもつながります。
まとめ:正確な診断と適切な治療が肝斑改善の鍵
肝斑は適切に治療すれば改善できる疾患です。
しかし、一般的なシミと見た目が似ているため、自己判断で間違った治療を選んでしまうと、かえって症状が悪化してしまうこともあります。特に高出力のレーザー治療は、肝斑を悪化させる可能性があるため注意が必要です。
肝斑とシミを見分けるポイントは、色と形状、発生部位、そして左右対称性です。肝斑は境界がぼんやりしており、両頬に左右対称に現れ、目の周囲が抜けるという特徴があります。しかし、プロでも見逃すことがあるため、専門医による正確な診断が不可欠です。
肝斑の治療には、内服療法(トラネキサム酸)、外用療法(ハイドロキノン、レチノール系製剤)、そして条件によってはレーザートーニングや光治療など、複数の選択肢があります。これらを個々の肝斑の状態に応じて組み合わせることで、効果的な治療が可能になります。
治療後も紫外線対策、低摩擦ケア、美白化粧品の継続使用など、適切なアフターケアを行うことで、肝斑の再発を防ぎ、美しい肌を維持することができます。
肝斑でお悩みの方は、まず専門医による正確な診断を受けることから始めましょう。
ななほしクリニックでは、形成外科専門医として豊富な経験をもとに、一人ひとりの患者様に最適な治療法をご提案しております。肝斑やシミでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。詳細はななほしクリニックの公式サイトをご覧ください。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




