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リンパ浮腫の患者さまにとって、蜂窩織炎は最も注意すべき合併症のひとつです。
一度発症すると急速に症状が進行し、場合によっては命に関わることもあります。
「小さな傷が大きな問題につながるのでは・・・」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、リンパ浮腫専門医として長年診療に携わってきた経験をもとに、蜂窩織炎を繰り返してしまう根本原因と、再発を防ぐための具体的な予防法・治療法を詳しくお伝えします。
蜂窩織炎とは?リンパ浮腫患者さまが知っておくべき基礎知識
蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、皮膚や皮下組織に細菌感染が起こり、強い炎症を引き起こす感染症です。
リンパ浮腫の患者さまにとって、これは特に注意が必要な合併症となります。

蜂窩織炎の主な症状
リンパ浮腫が生じている部位に以下のような症状がすべて現れた場合は、蜂窩織炎の可能性が高いといえます。
- 患部の赤みや熱感・痛み
- 蚊に刺されたような赤い斑点
- 大小の水ぶくれ
- 38℃以上の発熱
- 倦怠感
患部が急激に腫れ、皮膚にピリピリとした痛みが生じることが特徴です。
赤い筋状の腫れは、リンパ管が炎症を起こしたときに現れる症状で、見逃してはいけないサインとなります。
原因となる細菌
蜂窩織炎を引き起こす細菌として、よく見られるのは**ブドウ球菌**や**レンサ球菌**です。
これらの細菌は、皮膚や鼻・口の中にも存在しており、小さな傷口から体内に侵入することで感染を引き起こします。
以下のような状態は、細菌が皮膚に侵入する入口となってしまいます。
- ケガや擦り傷
- 手術の傷
- やけど
- 水虫
- 動物に咬まれた傷
- 湿疹やアトピーのような皮膚の疾患
蜂窩織炎自体は人から人へうつることはありませんが、細菌感染を防ぐためには日頃から手洗い・うがいを徹底し、ケガをしたときは傷口を衛生的に保つことが大切です。
リンパ浮腫の患者さまが蜂窩織炎を繰り返す3つの根本原因
リンパ浮腫の患者さまは、一般の方と比べて蜂窩織炎を発症しやすい状況にあります。
その理由は、リンパ浮腫特有の身体状態にあるのです。
1. 皮膚のバリア機能が低下している
皮膚のバリア機能とは、皮膚表面の細胞による、細菌やウイルス・アレルギー物質の侵入を防ぐ働きのことです。
むくんでいる腕や脚は皮膚が張って乾燥しており、バリア機能がうまく働いていない場合が多くあります。
リンパ浮腫が進行すると皮膚が厚く硬くなることがあり、小さな傷やひび割れができやすくなります。
爪の周りの傷や虫刺され、水虫といった皮膚トラブルがきっかけで細菌感染するケースもあるため、注意が必要です。
2. 免疫機能が低下している
リンパ液にはリンパ球のような免疫細胞が含まれますが、流れが悪くなることで免疫機能が働きにくくなります。
リンパ浮腫のある部位は免疫不全と同じような状態で、体内にごくわずかな細菌が侵入するだけでも蜂窩織炎を発症してしまうのです。
小さな傷や過労、体力低下なども発症の原因となります。
仕事が忙しくなる年末年始や初夏などは特に気をつけましょう。
3. 貯留した体液の中で細菌が増えやすい
むくみのある部分に溜まっている体液には、タンパク質や脂肪、壊れた細胞などの老廃物が多く含まれています。
これらの老廃物は細菌にとって栄養源となり、増殖しやすい環境を作り出してしまいます。
体液が貯留した部分は細菌が増えやすい環境であることも、リンパ浮腫を発症している方が蜂窩織炎に注意しなくてはならない理由です。
蜂窩織炎の症状が急速に進行する理由と再発リスク
リンパ浮腫のある方が蜂窩織炎を発症すると、一般の方とは異なる経過をたどることがあります。
症状が急速に進行する
リンパ浮腫の患者さまは免疫機能が低下しているため、細菌感染が起こると症状が急速に進行する可能性があります。
適切な治療をしなければ、感染した部位を切除しなくてはならない可能性もあります。
蜂窩織炎は細菌が全身に回り、命を落とすこともある恐ろしい感染症です。
症状が見られたときは、医療機関をすみやかに受診し、適切な治療を受けることが重要です。
再発を繰り返す場合もある
一度蜂窩織炎を発症すると、再発しやすくなることが知られています。
リンパ浮腫の患者さまは、皮膚のバリア機能や免疫機能の低下により、蜂窩織炎のリスクが高い状態が続きます。
再発を防ぐためには、日常的なスキンケアと適切なリンパ浮腫の治療が不可欠です。
リンパ浮腫が悪化する可能性がある
蜂窩織炎などの感染をきっかけにリンパ浮腫を発症したり、増悪したりすることがあります。
炎症によってリンパ管がさらにダメージを受け、リンパ液の流れがより悪化してしまうためです。
早期発見・治療が、リンパ浮腫の悪化を防ぐためにも重要となります。

蜂窩織炎の治療方法・・・早期対応が重症化を防ぐ鍵
蜂窩織炎の治療は、早期に開始することが最も重要です。
医療機関での診断と治療
蜂窩織炎が疑われる症状が現れたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
受診した際は、リンパ浮腫を発症していることや、がん術後でリンパ節郭清術を施行していることなどを医療者にかならず伝えましょう。
医療機関では血液検査(白血球・CRPの上昇など)を行い、診断を確定します。
抗菌薬による治療
蜂窩織炎の診断がついたら、抗菌薬の内服または点滴による治療が開始されます。
細菌感染に対する治療が優先となりますので、医師の指示に従ってきちんと服用することが大切です。
患部の冷却と安静
患部を冷やして安静に保つことも重要な治療の一部です。
氷嚢または、氷と水をビニール袋に入れて布で包んだものを準備し、患部に密着させます。
コロコロ転がしながら患部のその部位の熱がひくまで冷やし、位置をずらすことを繰り返します。
炎症がおさまるまではスキンケアのみ継続し、リンパドレナージや圧迫療法はお休みしましょう。
腫れているからといってマッサージしたり圧迫したりすることは症状を悪化させる可能性があるため、おすすめできません。
リンパ浮腫の患者さまが蜂窩織炎を予防する3つの方法
蜂窩織炎の再発を防ぐためには、日常的な予防ケアが欠かせません。
1. 毎日のスキンケアを徹底する
皮膚のバリア機能を保つために、毎日のスキンケアが重要です。
- 入浴後は保湿剤を塗布し、皮膚の乾燥を防ぐ
- 爪は短く切り、爪の周りを清潔に保つ
- 水虫などの皮膚疾患は早期に治療する
- 虫刺されや小さな傷にも注意し、消毒を行う
小さな傷でも細菌の侵入口となるため、日頃から注意深く観察することが大切です。
2. リンパ浮腫の治療に取り組む
リンパ浮腫そのものを適切に管理することが、蜂窩織炎の予防につながります。
複合的理学療法(スキンケア、リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法)を継続することで、むくみを軽減し、皮膚の状態を改善できます。
専門的な指導を受けながら、自分に合った方法で治療を続けることが重要です。
3. リンパ管静脈吻合術を検討する
当院では、リンパ浮腫の改善を目指す**リンパ管静脈吻合術**を日帰りで行っております。
この手術は、新たなリンパの流れを作り、むくみの軽減を目指す治療法です。
リンパ液の流れが改善されることで、体液の貯留が減少し、細菌感染のリスクを下げることが期待できます。
手術に関して不安がある場合は、笑気麻酔(痛みや不安を和らげる吸入タイプの麻酔)を併用することも可能ですので、安心してご相談ください。

受診すべきタイミングと日常生活での注意点
蜂窩織炎は早期発見・早期治療が何よりも重要です。
すぐに受診すべき症状
以下のような症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
- 患部の発赤
- 患部の熱感
- 患部の疼痛
- 浮腫の増悪
- 38℃以上の発熱
- 倦怠感
これらの症状がすべて揃っていなくても、いつもと違う変化を感じたら早めに相談することをおすすめします。
日常生活で気をつけるポイント
蜂窩織炎を予防するために、日常生活では以下の点に注意しましょう。
- 過労や体力低下を避ける
- 十分な睡眠と栄養を確保する
- 免疫力を維持するための生活習慣を心がける
- ケガをしないよう注意する
- ガーデニングなどの作業時は手袋を着用する
特に仕事が忙しくなる時期や季節の変わり目は、体調管理に十分注意してください。
まとめ・・・蜂窩織炎の再発予防には専門的なケアと日常管理が重要
リンパ浮腫の患者さまにとって、蜂窩織炎は最も注意すべき合併症です。
皮膚のバリア機能低下、免疫機能低下、体液貯留という3つの要因が重なることで、細菌感染のリスクが高まります。
再発を防ぐためには、毎日のスキンケア、適切なリンパ浮腫治療、そして必要に応じた手術治療の検討が重要です。
症状が現れたらすぐに医療機関を受診し、早期治療を開始することで重症化を防げる可能性があります。
当院では、リンパ浮腫専門医として、一人ひとりの患者さまに寄り添った診療を心がけております。
リンパ浮腫や蜂窩織炎でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
詳しい診療内容や治療方法については、ななほしクリニックの公式サイトをご覧ください。
みなさまの生活の質を向上させるお手伝いができれば幸いです。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




