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リンパ浮腫とは?基本を理解しましょう
リンパ浮腫は、体内のリンパ液の流れが滞ることで手足などにむくみが生じる病気です。
私たちの体には、動脈・静脈のほかに「リンパ管」という管が張り巡らされています。リンパ管内にはリンパ液が流れ、体液の循環を担っています。何らかの理由でリンパ液の流れが滞ると、むくみが生じてきます。この状態を「リンパ浮腫」といいます。
一度発症すると難治性で、徐々に進行してゆくのが特徴です。放置すると不可逆的なむくみや皮膚硬化(象皮症)、蜂窩織炎などのリスクが高まるため、早期診断・早期治療が極めて重要とされています。
リンパ浮腫の原因・・・なぜ発症するのか
リンパ浮腫の原因は、大きく2つに分けられます。
生まれつきの原因(原発性リンパ浮腫)
生まれつきリンパ管の形成不全や機能障害がある場合です。先天的にリンパ管の発達が不十分であったり、機能が低下していたりすることで発症します。
後天的な原因(続発性リンパ浮腫)
手術や外傷の後遺症として発症するケースが最も多くなっています。
特に多いのは、子宮がんや乳がん、前立腺がんの手術の際にリンパ節郭清を行った場合です。残されたリンパ管が頑張ってリンパ液を身体の中心に運びますが、限界に達すると感染などを契機として、急に下肢や上肢が腫れてしまいます。
がん治療後のリンパ浮腫は、治療から数ヶ月後、あるいは数年後に突然発症することもあります。そのため、がん治療を受けた方は長期的な経過観察が必要です。
リンパ浮腫の症状・・・早期発見のポイント
リンパ浮腫の症状は段階的に進行します。
初期段階では、手や足の軽いむくみから始まります。朝は比較的軽く、夕方になると腫れが強くなるという日内変動が見られることが多いです。この段階では、患肢を挙上すると改善することもあります。
進行すると現れる症状
症状が進行すると、むくみが常時存在するようになります。皮膚が硬くなり、押しても元に戻りにくくなります。さらに進行すると、皮膚の肥厚や色素沈着、象皮症と呼ばれる状態になることもあります。
蜂窩織炎などの感染を繰り返すと、より進行が早まります。重症なリンパ浮腫ではリンパ管の機能がほぼ消失してしまいます。
こんな症状があったら要注意
以下のような症状がある場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします。
- ・手や足が以前より太くなった気がする
- ・夕方になると靴や指輪がきつくなる
- ・皮膚を押すと跡が残る
- ・皮膚が硬くなってきた
- ・がん治療後に腕や脚の腫れが気になる
早期発見・早期治療が、その後の生活の質(QOL)を大きく左右します。
リンパ浮腫の診断・検査方法
リンパ浮腫の診断には、問診と視診・触診が基本となります。
専門医は、むくみの状態、皮膚の硬さ、左右差などを詳しく観察します。がん治療歴や手術歴、発症時期なども重要な情報です。
高周波エコーによる質的診断
当院では、高周波エコーによるリンパ管の質的診断を行っています。リンパ管の状態をその場で可視化することで、「今はこの部分でリンパが流れにくくなっています」と画面を見ながら説明することができます。
術前術後のリンパ管の状態をエコーで可視化することで、精度の高い治療計画を立てることが可能になります。
その他の検査
必要に応じて、リンパシンチグラフィーなどの検査を行うこともあります。これらの検査により、リンパ液の流れや貯留の程度を詳しく評価できます。
リンパ浮腫の治療法・・・保存的治療と手術療法
リンパ浮腫の治療は、保存的治療と手術療法に大きく分けられます。
保存的治療(複合的理学療法)
従来からの方法で、現在も治療の基本となっています。
むくんでいる手や足の挙上と、肥満傾向のある方には減量などの生活指導を行います。さらに、以下の治療を組み合わせて行います。
- ・弾性包帯やストッキングでの圧迫療法
- ・リンパドレナージ(マッサージ療法)
- ・運動療法
- ・スキンケア
これらの複合的理学療法により、浮腫を軽減したり、悪化を防いだり、進行のペースを抑えることができます。ただし、リンパ管の流れは障害されたままなので、完治させることは困難です。
医師の診断に基づき、弾性ストッキング等の着衣を購入する際は、1年に2回計4セットまで療養費としての申請が可能です。
手術療法(外科的治療)
保存的治療で効果が不十分な場合や、より積極的な改善を目指す場合に手術療法を検討します。
手術療法の目的は、貯まったリンパ液を下肢・上肢のところで静脈に流すためのバイパスを作ることです。新たなリンパ管の流れを作る手術といえます。
リンパ管静脈吻合術(LVA)
当院で力を入れている治療法です。
全身のリンパ液は最終的には心臓の近くの太い静脈に流れ込みます。しかし、リンパ浮腫の状態ではリンパ路が途中で閉塞しているため、リンパ液が皮下組織に貯まってしまいます。
そこで閉塞部分(足の付け根、脇)より先(下肢や上肢)でリンパ管と静脈のバイパスをつくり、貯まったリンパ液を静脈に流します。
局所麻酔で手術を行います。顕微鏡を覗きながら足や腕に数カ所1~3cmの小さな切開を入れて、皮膚直下の脂肪組織の中のリンパ管とそれとつなぐ静脈を探します。リンパ管は非常に細く0.5mmくらいです。
当院では国内製最高倍率の顕微鏡を使用した精密手術で、患者さまの負担を最小限にした日帰り治療を実現しています。
手術の効果と限界
手術後は今のむくみを劇的に改善することはありません。この手術はバイパス(新たなリンパ路)を作るもので、リンパ管を再生させるものではありません。
そのため、術後もストッキングやマッサージなどを使ってリンパ管を収縮させる手助けをしなくてはなりません。手術後は全員に術前と同じように圧迫療法をして頂きます。毎日必ず圧迫することが必要になります。圧迫をしないと手術の効果は期待できません。
このようにすることで、リンパ浮腫が完治する方もおります。しかし、術後バイパス効果が認められず、浮腫が進行する場合もあります。
患肢挙上や圧迫療法等の複合的理学療法に関しては、現在のところ一生継続しなければならないと考えられています。
手術の適応
圧迫療法のやりづらい陰部の浮腫がある場合や、蜂窩織炎を繰り返している場合はリンパ管静脈吻合等の手術療法の良い適応と考えられています。
また近年では予防的リンパ管静脈吻合といった、リンパ浮腫が発症する前に手術介入を行うことで、リンパ浮腫の発症を抑えられたという研究もあり、手術適応が広がる可能性があります。
リンパ節・リンパ管移植
重症なリンパ浮腫ではリンパ管の機能がほぼ消失します。この場合、リンパ管静脈吻合術を行っても流れがないため、効果は期待できません。
そのため、障害のない健康なリンパ節やリンパ管を移植することで、リンパ管の機能回復を図ります。下肢リンパ浮腫の場合は腋窩から鼠径部に、上肢リンパ浮腫の場合は鼠径や足から腋窩に移植を行います。
ななほしクリニックでのリンパ浮腫治療
当院は、堺市に開院したリンパ浮腫治療を専門とする形成外科クリニックです。
院長は現在も和歌山県立医科大学附属病院で形成外科医として勤務しており、大学病院で磨いてきた高度な技術と知識を、地域の患者さまへ還元したいという思いで開院に至りました。
当院の特徴
当院では、多角的アプローチによる集学的治療を提供しています。
- 高周波エコーによるリンパ管の質的診断
- 最新顕微鏡を用いたLVA(リンパ管静脈吻合術)の日帰り手術
- 医療用弾性着衣を用いた圧迫療法
- リンパドレナージを中心とした保存的治療
- 他クリニックとの連携による術後ケア体制の強化
特にLVA手術は、国内製最高倍率の顕微鏡を使用した精密手術で、患者さまの負担を最小限にした日帰り治療を実現しています。
複数の専門医による診療体制
形成外科・皮膚科・美容皮膚科・婦人科まで、多領域の専門医が在籍しています。男性医師・女性医師の両方がいるため、性別問わず相談しやすい体制です。
婦人科は女性専用待合室を設置し、女性医師のみが診療を担当しています。月経トラブル・PMS・ピル処方・更年期など、デリケートなお悩みも相談しやすい環境を整えています。
痛みへの配慮
形成外科手術・レーザー治療など、痛みが心配な場合は笑気麻酔を併用し、リラックスして治療を受けられるようにしています。
リンパ浮腫と上手に付き合うために
リンパ浮腫は一人で悩み続けると、心まで疲れてしまいます。
地域の皆さまに寄り添い、すべての患者さまの生活の質(QOL)を向上させることが私たちの使命です。特にリンパ浮腫は早期発見・適切な治療が重要です。専門性を活かし、最適な治療をご提案します。
日常生活での注意点
リンパ浮腫の予防や悪化防止のために、日常生活でできることがあります。
- ・患肢を清潔に保ち、スキンケアを心がける
- ・適度な運動を継続する
- ・肥満を避け、適正体重を維持する
- ・患肢の挙上を習慣化する
- ・感染予防に努める
これらの日常的なケアと、専門医による定期的な診察・治療を組み合わせることで、リンパ浮腫と上手に付き合っていくことができます。
こんな方はぜひご相談ください
- ・リンパ浮腫のむくみに悩んでいる
- ・がん治療後で腕・脚の腫れが気になる
- ・自分の状態をしっかり”見える化”して知りたい
- ・大学病院レベルの治療を、通いやすい場所で受けたい
- ・女性医師に婦人科の相談をしたい
- ・傷跡、ワキガ、皮膚トラブルなどを総合的に診てほしい
もし同じように困っている方がいるなら、一度相談してみる価値はあると思います。専門性が高いのに、話しやすくてあたたかいクリニックを目指しています。
まとめ
リンパ浮腫は、リンパ液の流れが滞ることで手足などにむくみが生じる病気です。がん治療後の後遺症として発症することが多く、放置すると徐々に進行してしまいます。
早期発見・早期治療が極めて重要です。保存的治療(圧迫療法・リンパドレナージなど)と手術療法(LVA・リンパ節移植など)を組み合わせた集学的治療により、症状の改善や進行の抑制が期待できます。
当院では、高周波エコーによる精密診断と国内製最高倍率の顕微鏡を用いたLVA手術を中心に、患者さま一人ひとりに最適な治療を提供しています。リンパ浮腫でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
あなたの生活の質(QOL)を向上させるために、私たちは全力でサポートいたします。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




