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リンパ浮腫治療における圧迫療法とリンパドレナージの重要性
リンパ浮腫は、がん治療や外傷をきっかけにリンパの流れが滞り、手足にむくみが生じる病気です。
放置すると不可逆的なむくみや皮膚硬化(象皮症)、蜂窩織炎などのリスクが高まるため、早期診断・早期治療が極めて重要とされています。特に乳がんや婦人科がん術後の患者さまにとって、適切な治療とセルフケアは生活の質(QOL)を大きく左右する要素となります。
2025年現在、リンパ浮腫治療の中心となっているのが「複合的治療」と呼ばれるアプローチです。これは、スキンケア、用手的リンパドレナージ、圧迫療法、圧迫下での運動、体重管理などのセルフケアを組み合わせた治療法で、医療制度上も標準治療として位置づけられています。
本記事では、圧迫療法とリンパドレナージに焦点を当て、最新のエビデンスに基づいた効果と活用法について詳しく解説します。
圧迫療法の効果とエビデンス
弾性着衣による圧迫療法の標準的位置づけ
弾性着衣を用いた圧迫療法は、リンパ浮腫治療において標準治療として推奨されています。
日本リンパ浮腫学会が編集した「リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版」では、上肢リンパ浮腫に対する弾性着衣の使用は推奨グレードBとされており、一定の科学的根拠に基づいた治療法として認められています。下肢リンパ浮腫に対しても推奨グレードC1として、臨床的有用性が示されています。
圧迫療法の効果は、リンパ液の停滞を改善し、むくみの進行を抑えることにあります。弾性着衣は適度な圧力を患部にかけることで、リンパ管の流れを促進し、組織内の余分な水分を減少させる働きがあります。
多層包帯法(MLLB)の臨床的有用性
多層包帯法(MLLB)も圧迫療法の重要な手法です。
上肢リンパ浮腫に対しては推奨グレードB、下肢リンパ浮腫に対しては推奨グレードC1とされており、特に急性期や浮腫が強い時期に有効とされています。多層包帯法は、複数の包帯を重ねて巻くことで、弾性着衣よりも強い圧迫を加えることができ、リンパ液の流れをより効果的に促進します。
ただし、正しい巻き方を習得する必要があり、専門的な指導を受けることが推奨されます。
間欠的空気圧迫療法(IPC)の位置づけ
間欠的空気圧迫療法(IPC)は、圧迫療法や用手的リンパドレナージに追加する補助的治療として検討されています。
上肢・下肢ともに推奨グレードC2とされており、単独での標準治療としての推奨度は低いものの、他の治療法と組み合わせることで一定の効果が期待できる可能性があります。IPCは、空気圧を利用して患部に周期的な圧迫を加える機器で、自宅でも使用できる利便性があります。
リンパドレナージの種類と効果
用手的リンパドレナージ(MLD)の臨床的評価
用手的リンパドレナージ(MLD)は、専門的な手技によってリンパの流れを促進する治療法です。
リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版では、上肢・下肢ともに推奨グレードC1とされており、標準治療の一環として位置づけられています。MLDは、リンパ管の走行に沿って、やさしい圧力でリンパ液を誘導する専門的な手技であり、マッサージとは異なるアプローチです。
MLDの効果として、上肢機能の改善、疼痛やだるさなどの自覚症状の軽減、QOLの向上が報告されています。ただし、専門的な訓練を受けた医療スタッフによる施術が必要であり、すべての医療機関で受けられるわけではありません。
シンプルリンパドレナージ(SLD)の可能性
シンプルリンパドレナージ(SLD)は、MLDを簡略化した手技で、患者さま自身やご家族が自宅で実施できるセルフケアとして注目されています。
現時点では推奨度評価が確立されていないものの、セルフケアの一環として取り入れられることがあります。SLDは、MLDほど専門的な技術を必要とせず、日常生活の中で継続しやすいという利点があります。ただし、正しい手技を習得するためには、医療スタッフからの指導を受けることが重要です。
リンパドレナージと圧迫療法の組み合わせ
リンパドレナージと圧迫療法を組み合わせることで、より高い治療効果が期待できます。
リンパドレナージによってリンパ液の流れを促進した後、圧迫療法によってその状態を維持することで、むくみの改善と予防が可能になります。この組み合わせは、複合的治療の中核をなすアプローチであり、多くの医療機関で実践されています。
セルフケアの重要性と具体的方法
セルフケア指導の保険適用と内容
平成20年度の診療報酬改定により、リンパ浮腫指導が保険で行えるようになりました。
指導内容には、リンパ浮腫の病因と病態、治療方法の概要、セルフケアの重要性と具体的実施方法、生活上の注意事項、感染症発症時の対処方法が含まれます。さらに平成28年度からはリンパ浮腫複合的治療が保険適用となり、セルフケア指導は治療の必須要素として位置づけられています。
スキンケアと日常生活での注意点
スキンケアは、リンパ浮腫のセルフケアの基本です。
患部の傷や針刺し、巻き爪、虫刺され、ペットの引っかき、やけどに注意し、皮膚を清潔に保ち、保湿や保護を行うことが重要です。皮膚感染が起きた場合は速やかに抗菌薬を使用し、サウナやスチームバス、熱い風呂などは避けるようにします。また、衣類による圧迫もリンパ液の流れを阻害する可能性があるため、締め付けの強いブラジャーやショーツは避けることが推奨されます。
運動療法と体重管理の効果
運動はリンパ浮腫の予防と治療に有効です。
リンパ浮腫のリスクがある患者さまが運動を行った場合、上肢リンパ浮腫の発症率減少については「ほぼ確実(Probable)」、下肢リンパ浮腫については「可能性あり(Limited-suggestive)」とされています。また、治療としての運動も、上肢リンパ浮腫に対しては推奨グレードB、下肢リンパ浮腫に対しては推奨グレードC1とされており、圧迫下での運動が特に効果的とされています。
体重管理も重要な要素です。肥満は上肢リンパ浮腫の発症危険因子として「ほぼ確実(Probable)」とされており、体重管理によってリンパ浮腫の発症率を下げる、あるいは浮腫を軽減できる可能性があります。
最新の外科的治療とその効果
リンパ管静脈吻合術(LVA)の進歩
リンパ管静脈吻合術(LVA)は、リンパ浮腫に対する外科的治療の一つです。
推奨グレードC2とされていますが、専門的な技術を持つ医療機関では日帰り手術として実施されており、患者さまの負担を最小限にした治療が可能になっています。LVAは、顕微鏡を使用してリンパ管と静脈を吻合し、リンパ液の流れを改善する精密な手術です。術前術後のリンパ管の状態を高周波エコーで可視化することで、精度の高い治療が提供されています。
血管柄付きリンパ節移植術と脂肪吸引術
血管柄付きリンパ節移植術と脂肪吸引術も、リンパ浮腫に対する外科的治療として検討されています。
いずれも推奨グレードC2とされており、一部の専門医療機関で実施されています。これらの治療法は、保存的治療で効果が不十分な場合や、進行したリンパ浮腫に対して検討される選択肢です。ただし、外科的治療後も圧迫療法やセルフケアの継続が必要であり、手術だけで完治するものではありません。
漢方薬の補助的役割
リンパ浮腫に対する漢方薬の使用も研究されています。
推奨グレードC2とされており、補助的な治療として検討される場合があります。漢方薬は、体質改善やむくみの軽減を目的として使用されることがありますが、単独での治療効果は限定的であり、複合的治療の一環として位置づけられます。
予防とリスク管理の最新知見
生活関連因子とリンパ浮腫発症リスク
生活関連因子とリンパ浮腫の発症・増悪との関連について、最新のエビデンスが蓄積されています。
採血や血圧測定については「大きな関連なし(Substantial effect on risk unlikely)」とされており、過度に心配する必要はありません。一方、感染については「ほぼ確実(Probable)」な危険因子とされており、皮膚の清潔保持と感染予防が重要です。空旅については上肢リンパ浮腫では「大きな関連なし」とされていますが、下肢リンパ浮腫については「証拠不十分(Limited-no conclusion)」とされています。
放射線照射とタキサン系薬剤の影響
放射線照射は、上肢・下肢ともにリンパ浮腫発症の「確実(Convincing)」または「ほぼ確実(Probable)」な危険因子とされています。
がん治療において放射線療法を受ける場合は、リンパ浮腫のリスクを認識し、早期からの予防的ケアが重要です。タキサン系薬剤については、浮腫に関しては「確実(Convincing)」、リンパ浮腫に関しては「可能性あり(Limited-suggestive)」とされており、化学療法中および治療後の経過観察が必要です。
センチネルリンパ節生検後のケア
センチネルリンパ節生検によって腋窩郭清を省略した乳がん患者さまに対しても、リンパ浮腫ケアは推奨グレードBとして必要とされています。
腋窩郭清を省略できた場合でもリンパ浮腫のリスクはゼロではなく、適切なセルフケアと定期的な経過観察が重要です。早期発見・早期対応により、重症化を防ぐことができます。
ななほしクリニックにおける集学的治療アプローチ
高周波エコーによる精密診断
ななほしクリニックでは、高周波エコーによるリンパ管の質的診断を行っています。
リンパ管の状態をその場で可視化することで、患者さまご自身が症状を理解しやすくなり、治療方針の決定にも役立ちます。術前術後のリンパ管の状態を比較することで、治療効果を客観的に評価することも可能です。
LVA日帰り手術と術後ケア体制
当院では、国内製最高倍率の顕微鏡を使用したLVA(リンパ管静脈吻合術)の日帰り手術を実施しています。
患者さまの負担を最小限にしながら、精密な手術を提供することが可能です。また、他クリニックとの連携による術後ケア体制を強化しており、手術後の圧迫療法やリンパドレナージなど、継続的なケアをサポートしています。診察から検査、手術、術後ケアまでの流れがスムーズで、生活の中で治療を進めやすい体制を整えています。
多角的アプローチによる複合的治療
ななほしクリニックでは、医療用弾性着衣を用いた圧迫療法、リンパドレナージを中心とした保存的治療、そして必要に応じた外科的治療を組み合わせた集学的治療を提供しています。リンパドレナージに関しては専属ナースではなくリミティというリンパドレナージ用の機器を用いて行います。
形成外科・皮膚科・美容皮膚科・婦人科まで多領域の専門医が在籍しており、リンパ浮腫だけでなく、関連する皮膚トラブルや婦人科的な悩みにも総合的に対応できる体制です。男性医師・女性医師の両方がいるため、性別問わず相談しやすい環境を整えています。
まとめ:リンパ浮腫治療における圧迫療法とリンパドレナージの位置づけ
圧迫療法とリンパドレナージは、リンパ浮腫治療の中核をなす重要な治療法です。
弾性着衣や多層包帯法による圧迫療法は、上肢・下肢ともに標準治療として推奨されており、用手的リンパドレナージと組み合わせることで、むくみの改善と予防が期待できます。セルフケアとしてのスキンケア、運動療法、体重管理も、治療効果を高め、再発を防ぐために不可欠な要素です。
外科的治療としてのLVAや血管柄付きリンパ節移植術、脂肪吸引術も選択肢として存在しますが、手術後も保存的治療の継続が必要です。リンパ浮腫は一度発症すると完治が難しい疾患ですが、早期発見・早期治療により、症状の進行を抑え、生活の質を維持することが可能です。
むくみが気になる、腕や脚が重いなどの変化を感じたら、早めに専門医に相談することが大切です。ななほしクリニックでは、最新の知識と技術を活かし、地域の皆さまが安心して日常生活を送れるようサポートを続けてまいります。リンパ浮腫でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
お問い合わせ・ご予約
ななほしクリニック(堺市)では、リンパ浮腫の専門的診療を行っています。むくみや重だるさなど、気になる症状がございましたら、お気軽にご相談ください。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




