
目次
リンパ浮腫治療の選択肢と手術のタイミング
リンパ浮腫は、手術やがん治療の後遺症として発症することが多く、放置すると徐々に進行していく病気です。
保存療法だけでは改善が難しくなってきたとき、「手術」という選択肢が頭をよぎる方も少なくありません。しかし、いつ手術を検討すべきか、どのような状態なら手術が有効なのか、判断に迷われる方が多いのも事実です。
形成外科医として大学病院でリンパ浮腫治療に携わってきた経験から、手術を選ぶべきタイミングと、その判断基準について詳しく解説していきます。
リンパ浮腫の進行と治療の段階
リンパ浮腫は、リンパ液の流れが滞ることで手足にむくみが生じる病気です。
乳がんや子宮がん、前立腺がんなどの治療でリンパ節を切除した場合や、放射線治療によってリンパ管が傷ついた場合に発症しやすくなります。初期段階では圧迫療法やリンパドレナージといった保存的治療が中心となりますが、症状が進行すると皮膚の硬化や蜂窩織炎といった合併症のリスクが高まります。
治療の基本は「複合的治療」と呼ばれる方法で、スキンケア、医療用リンパドレナージ、圧迫療法、そして適度な運動を組み合わせて行います。
これらの保存療法は、リンパ浮腫の悪化を防ぎ、むくみを軽減する効果がありますが、完全に治すことは難しいのが現状です。そのため、症状の程度や患者さまの生活の質を考慮しながら、外科的治療を検討するタイミングを見極めることが重要になります。
保存療法の限界を知る
保存療法を続けていても、むくみが徐々に増悪していく場合があります。
特に、弾性ストッキングやスリーブの着用が困難になってきたり、蜂窩織炎を繰り返すようになったりした場合は、治療方針の見直しが必要です。また、日常生活に支障をきたすほどの腫れや重さを感じるようになった場合も、手術を含めた次のステップを考える時期と言えます。
手術を選ぶべきタイミングとは
手術を検討すべきタイミングは、患者さまの状態によって異なります。
一般的には、保存療法を十分に行っても症状の改善が見られない場合や、むくみが進行して生活の質が著しく低下している場合に手術が選択肢となります。ただし、手術には根治治療ではないため絶対適応ではないため相談を十分行う必要があります。
保存療法で効果が得られない場合
圧迫療法やリンパドレナージを継続しても、むくみの軽減が見られない場合は手術を検討する時期かもしれません。
特に、リンパ管の機能がほぼ失われている重症例では、保存療法だけでは限界があります。高周波エコーやリンパシンチグラフィーといった検査でリンパ管の状態を評価し、手術の適応があるかどうかを判断します。リンパ管がまだ機能している段階であれば、リンパ管静脈吻合術(LVA)が有効な選択肢となります。
生活の質が著しく低下している場合
むくみによって日常生活に大きな支障が出ている場合も、手術を検討すべきタイミングです。
例えば、腕や脚の腫れが原因で仕事や家事ができなくなったり、外出を控えるようになったりした場合、精神的な負担も大きくなります。また、弾性着衣の着用が困難になるほどむくみが進行している場合や、皮膚の硬化が進んで象皮症の兆候が見られる場合も、早めの外科的介入が推奨されます。
蜂窩織炎を繰り返す場合
リンパ浮腫が進行すると、蜂窩織炎という細菌感染を繰り返しやすくなります。
蜂窩織炎は発熱や患部の発赤・腫脹を伴い、抗生物質による治療が必要です。この感染を繰り返すことで、さらにリンパ管の機能が低下し、悪循環に陥ります。蜂窩織炎を年に数回以上繰り返すようであれば、手術によってリンパ液の流れを改善し、感染のリスクを減らすことが重要になります。
リンパ浮腫の外科的治療の種類
リンパ浮腫に対する手術には、主に二つの方法があります。
一つは「リンパ管静脈吻合術(LVA)」、もう一つは「リンパ節・リンパ管移植」です。どちらを選択するかは、リンパ管の状態や症状の進行度によって決まります。
リンパ管静脈吻合術(LVA)の特徴
LVAは、リンパ管と静脈を顕微鏡下でつなぎ合わせる手術です。
リンパ液の流れが滞っている部分より先で、リンパ管と静脈をバイパスのようにつなぐことで、リンパ液を直接静脈に流し込みます。この手術は局所麻酔で行われることが多く、日帰りまたは数日の入院で済むため、患者さまの負担が比較的少ないのが特徴です。ただし、リンパ管がまだ機能している段階でないと効果が期待できないため、早期の段階で検討することが重要です。
手術時間は3〜4時間程度で、腕や脚に数カ所の小さな切開を入れて行います。
リンパ管は非常に細く、直径0.5mm程度しかないため、高倍率の顕微鏡を使用して慎重に吻合します。当院では国内製最高倍率の顕微鏡を使用しており、精度の高い手術を実現しています。術後は圧迫療法を継続することで、手術の効果を最大限に引き出すことができます。
リンパ節・リンパ管移植の適応
リンパ管の機能がほぼ失われている重症例では、LVAでは効果が期待できません。
このような場合、健康なリンパ節やリンパ管を他の部位から採取して移植する方法が選択されます。下肢のリンパ浮腫であれば腋窩から鼠径部へ、上肢のリンパ浮腫であれば鼠径部から腋窩へ移植を行います。この手術は全身麻酔で行われ、入院期間は2週間程度となります。乳房再建と同時に行うことも可能です。
手術前に必要な検査と準備
手術を決断する前に、いくつかの検査を行ってリンパ管の状態を詳しく評価します。
これらの検査結果に基づいて、最適な手術方法を選択し、手術の効果を予測します。
高周波エコーによる診断
高周波エコーは、リンパ管の質的診断に有効な検査です。
リンパ管の太さや流れの状態を可視化することで、LVAの適応があるかどうかを判断します。この検査は非侵襲的で、外来で簡単に行うことができます。リンパ管がまだ機能している場合は、エコー画像でリンパ液の流れを確認することができ、手術の成功率を予測する重要な指標となります。
リンパシンチグラフィーの役割
リンパシンチグラフィーは、リンパ液の流れを全体的に評価する検査です。
放射性物質を皮下に注射し、その物質がリンパ管を通って移動する様子を画像化します。この検査によって、リンパ液の流れが滞っている部位や、リンパ節への取り込み状態を確認できます。2018年から保険診療で行えるようになり、より多くの患者さまが受けられるようになりました。
インドシアニングリーン(ICG)リンパ造影
ICGリンパ造影は、手術前に行う精密な検査です。
ICGという物質を皮下に注射し、特殊なカメラでリンパ管の流れをリアルタイムで観察します。この検査によって、どのリンパ管を手術でつなぐのが最も効果的かを判断できます。リンパシンチグラフィーよりも細かいリンパ管の流れまで見ることができるため、手術計画を立てる上で非常に重要な検査となります。
手術後の経過と継続的なケア
手術を受けた後も、リンパ浮腫の管理は続きます。
手術はリンパ液の流れを改善するためのものですが、リンパ管を再生させるわけではありません。そのため、術後も圧迫療法やリンパドレナージを継続することが重要です。

術後の圧迫療法の重要性
手術後は、必ず圧迫療法を継続する必要があります。
弾性ストッキングやスリーブを毎日着用することで、新たに作られたリンパ液の流れを維持し、手術の効果を最大限に引き出すことができます。圧迫を怠ると、手術の効果が十分に得られない可能性があるため、術前からしっかりと圧迫療法を行える方に手術を推奨しています。
追加手術の可能性
一回の手術で作れるバイパスの数には限界があります。
リンパ管と静脈の状態や手術時間の制約により、十分な数のバイパスを作れない場合もあります。そのため、経過を見ながら追加の手術を検討することがあります。複数回の手術を行うことで、より多くのリンパ液を静脈に流すことができ、症状の改善が期待できます。
生活の質の向上を目指して
手術の目的は、むくみを劇的に改善することだけではありません。
蜂窩織炎の発症を減らし、弾性着衣の着用負担を軽減し、日常生活の質を向上させることが最も重要な目標です。手術によってリンパ浮腫が完治する方もいますが、すべての方に同じ効果が得られるわけではありません。それでも、適切なタイミングで手術を受けることで、症状の進行を抑え、より快適な生活を送れる可能性が高まります。
まとめ:最適なタイミングで最良の選択を
リンパ浮腫の手術を選ぶべきタイミングは、一人ひとりの状態によって異なります。
保存療法を十分に行っても改善が見られない場合、生活の質が著しく低下している場合、蜂窩織炎を繰り返す場合などが、手術を検討すべき主なタイミングです。手術には「リンパ管静脈吻合術(LVA)」と「リンパ節・リンパ管移植」の二つの方法があり、リンパ管の状態や症状の進行度に応じて選択します。
手術前には高周波エコーやリンパシンチグラフィー、ICGリンパ造影といった検査を行い、リンパ管の状態を詳しく評価します。
手術後も圧迫療法を継続することが重要で、場合によっては追加手術を検討することもあります。リンパ浮腫は早期発見・早期治療が極めて重要です。むくみが気になり始めたら、できるだけ早く専門医に相談し、適切な治療を受けることをお勧めします。
ななほしクリニックでは、大学病院レベルの高度な技術と知識を活かし、リンパ浮腫治療に特化した診療を行っています。
リンパ浮腫でお悩みの方、手術を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。専門性を活かし、患者さまお一人お一人に最適な治療をご提案いたします。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




