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リンパ浮腫の手術治療とは?
リンパ浮腫は、手術やがん治療の後遺症として発症することが多い病気です。
手足のむくみが徐々に進行し、放置すると皮膚が硬くなる「象皮症」や感染症のリスクが高まります。従来は圧迫療法やリンパドレナージといった保存的治療が中心でしたが、近年では外科的治療の選択肢が広がっています。
リンパ浮腫の手術治療には、主に「リンパ管静脈吻合術(LVA)」と「リンパ節移植」があります。LVAは、閉塞したリンパ管を静脈につなぎ、貯まったリンパ液を静脈に流すバイパスを作る手術です。一方、リンパ節移植は、健康なリンパ節を採取して患部に移植し、リンパ管の機能回復を図る方法です。
これらの手術は、症状の進行度や患者さまの状態によって適応が異なります。早期のリンパ浮腫ではLVAが第一選択となることが多く、重症化した場合はリンパ節移植や脂肪吸引が検討されます。

保険適用の条件と対象となる手術
リンパ浮腫の手術治療における保険適用は、患者さまにとって重要な関心事です。
保険適用される手術の種類
現在、日本ではリンパ管静脈吻合術(LVA)やリンパ節移植、脂肪吸引などが保険適用で行われています。この手術は、乳がんや子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなどの治療後に発症する続発性リンパ浮腫に対して行われます。
LVAは局所麻酔で実施できる日帰り手術であり、患者さまの身体的負担が比較的少ない点が特徴です。顕微鏡を使用して0.5‐1.0mm程度の細いリンパ管と静脈を縫合する精密な手術ですが、保険診療として認められています。
保険適用の具体的な基準
保険適用を受けるためには、リンパ浮腫の診断が必要になります。また、術前に適切な圧迫療法を実施していることも重要な条件となります。圧迫療法をしっかり行った上で手術を受けることで、より高い治療効果が期待できるためです。
診断においては、リンパシンチグラフィやICGを用いた蛍光リンパ管造影などの検査が推奨されますが、これらの画像検査自体は現時点で保険収載されていません。しかし、臨床所見と四肢周径の測定によってリンパ浮腫の診断と評価が行われています。
手術費用の相場と自己負担額
リンパ浮腫の手術費用は、保険適用により患者さまの経済的負担が軽減されます。
リンパ管静脈吻合術の費用
片側の上肢または片側下肢に対してリンパ管静脈吻合術を行う場合、3割負担で約11万円程度となります。手術箇所が複数になる場合や、両側に手術を行う場合は、費用がそれに応じて増加しますが、高額医療費制度の活用をしていただくことで多くの場合数万円程度となっております。
下肢のリンパ浮腫では、約2~3割の方が反対側も腫れてくる可能性があるため、予防的に両側同時に手術を行うケースもあります。この場合、費用は両側分となりますが、将来的な発症リスクを低減できるメリットがあります。
高額医療費制度の活用
手術費用が高額になる場合、高額医療費制度を利用できる可能性があります。この制度は、1ヶ月の医療費が一定額を超えた場合に、超過分が払い戻される仕組みです。
所得区分によって自己負担限度額が異なりますので、事前に加入している健康保険組合や市区町村の窓口に確認することをおすすめします。限度額適用認定証を事前に取得しておくと、窓口での支払いが限度額までで済むため、一時的な負担を軽減できます。
その他の治療費用
手術費用以外にも、術前の診察や検査、術後の経過観察にかかる費用があります。また、弾性着衣(弾性スリーブやストッキング)は保険適用で購入できますリンパ浮腫複合的治療も平成28年度から保険適用となっており、弾性着衣による圧迫、用手的リンパドレナージ、スキンケア、運動療法などを組み合わせた治療が受けられます。
手術の適応基準と診断プロセス
リンパ浮腫の手術を受けるためには、適切な診断と評価が必要です。
手術適応の判断基準
リンパ管静脈吻合術は、早期のリンパ浮腫に対して特に効果的です。症状が進行して皮膚が硬くなってしまった場合、LVAの効果は限定的となり、リンパ節移植や脂肪吸引が検討されます。
手術適応の判断には、病期分類が重要な役割を果たします。国際リンパ学会(ISL)の病期分類では、0期から3期までの段階があり、早期であるほど手術の効果が期待できます。
また、術前に圧迫療法をしっかり実施できていることが重要な条件です。圧迫療法によってリンパ管を収縮させる習慣がついていると、手術後の効果がより高まります。
診断に必要な検査
リンパ浮腫の確定診断には、いくつかの検査方法があります。リンパシンチグラフィは最も有用な診断法とされていますが、日本では保険収載されていません。
ICGを用いた蛍光リンパ管造影は、体表から2cm程度の深さまでリンパ管の走行や機能を観察できます。リンパ浮腫に特有の「dermal backflow」という所見を確認することができます。
高周波エコーによる検査も有用で、皮下の水分貯留の程度やリンパ管の状態を非侵襲的に観察できます。ななほしクリニックでは、この高周波エコーを用いてリンパ管の質的診断を行い、術前術後の状態を可視化しています。
専門医による総合的な評価
リンパ浮腫の診療においては、専門的な教育を受けた医療者によるチーム医療が重要です。医師、看護師、理学療法士、作業療法士などが連携して、患者さまの状態を多角的に評価します。
ななほしクリニックでは、院長が和歌山県立医科大学附属病院で形成外科医として培った高度な技術と知識を活かし、国内製最高倍率の顕微鏡を使用した精密なLVA手術を提供しています。術前の丁寧な説明から術後のケアまで、一貫したサポート体制が整っています。
手術の流れと術後のケア
リンパ管静脈吻合術の実際の流れをご説明します。
術前準備と手術当日
手術前には、超音波検査を行い、リンパ管の走行と状態を詳細に確認します。これにより、最適な吻合箇所を決定できます。
手術は局所麻酔で行われ、2~3時間程度で完了します。顕微鏡を使用して、膝や下腿など複数箇所でリンパ管と静脈を吻合します。使用する針付き糸は0.05mm程度と非常に細く、高度な技術が必要とされます。
日帰り手術のため、手術後は歩行して帰宅できます。特別な安静は必要ありませんが、患部に負担をかけないよう注意が必要です。
術後の経過観察
1~2週間後に傷の状態を診察します。
傷には軽い痛みを感じることがありますが、通常2~3日でおさまります。痛みが強い場合や異常を感じた場合は、すぐにクリニックに連絡することが大切です。
手術後1~6ヶ月の期間は、リンパ浮腫の状態を定期的に診察します。リンパ浮腫の進行具合によっては、リンパ管が変性してしまっている場合もあり、その際は改善が見られない可能性もあります。必要に応じて、追加でリンパ管静脈吻合術を行うこともあります。
術後の圧迫療法の継続
手術後も、圧迫療法の継続は必須です。LVAはバイパスを作る手術であり、リンパ管を再生させるものではありません。そのため、弾性ストッキングやマッサージを使ってリンパ管の収縮を助ける必要があります。
毎日必ず圧迫することで、手術の効果を最大限に引き出せます。圧迫をしないと、せっかくの手術効果が期待できなくなってしまいます。術前にしっかり圧迫療法ができていた方ほど、術後の経過が良好です。
適切な術後ケアを継続することで、リンパ浮腫が完治する方もいらっしゃいます。しかし、バイパス効果が認められず、浮腫が進行する場合もあることを理解しておく必要があります。

ななほしクリニックでの治療の特徴
堺市にあるななほしクリニックは、リンパ浮腫治療に特化した形成外科クリニックです。
高度な専門性と最新設備
院長は現在も和歌山県立医科大学附属病院で形成外科医として勤務しており、大学病院レベルの高度な技術を地域の患者さまに提供しています。日本形成外科学会専門医、医学博士、リンパ浮腫保険診療医などの資格を持ち、豊富な経験と知識を有しています。
国内製最高倍率の顕微鏡を使用したLVA手術は、精密かつ患者さまの負担を最小限にした日帰り治療です。高周波エコーによるリンパ管の質的診断により、術前術後の状態を可視化し、精度の高い治療を実現しています。
多角的アプローチによる集学的治療
ななほしクリニックでは、手術だけでなく、医療用弾性着衣を用いた圧迫療法、リンパドレナージを中心とした保存的治療、他クリニックとの連携による術後ケア体制の強化など、多角的なアプローチで治療を行っています。
形成外科・皮膚科・美容皮膚科・婦人科まで多領域の専門医が在籍しており、リンパ浮腫以外の症状も総合的に診療できる体制が整っています。男性医師・女性医師の両方がいるため、性別を問わず相談しやすい環境です。
患者さまに寄り添った診療
院長は「地域の皆さまに寄り添い、すべての患者さまの生活の質(QOL)を向上させることが使命」と述べています。リンパ浮腫は早期発見・適切な治療が重要であり、専門性を活かした最適な治療を提案しています。
婦人科は女性専用待合室を設置し、女性医師のみが診療を担当しているため、デリケートなお悩みも相談しやすい配慮がなされています。痛みへの不安に対しては、笑気麻酔を併用してリラックスして治療を受けられる体制も整えています。
リンパ浮腫治療における早期対応の重要性
リンパ浮腫は、早期発見と早期治療が極めて重要です。
放置すると不可逆的なむくみや皮膚硬化(象皮症)、蜂窩織炎などのリスクが高まります。特に二次性リンパ浮腫は、腕や脚の付け根から始まることが多く、下肢の場合は陰部にむくみが出ることもあります。初期に対応すれば、それほど心配する必要はありません。
むくみはその時々で移動しています。圧のかけ方ですぐに変わるため、はじめは鼠径部にあったむくみも徐々に下の方に落ちていき、脚全体のむくみになります。そのため、脚全体のむくみとして考えて対応することが大切です。
セルフケアも重要な予防・治療手段です。十分な指導を受けて行う場合、リンパ浮腫の発症予防や発症後の増悪予防となり得ます。スキンケア、体重管理、適切な運動、弾性着衣の正しい着用など、日常生活での注意点を理解し実践することが求められます。
ななほしクリニックでは、初診から丁寧に話を聞き、リンパ浮腫の説明から始めて、患者さまの状態を詳しく評価します。「どうしてむくんでしまうのか」「今の状態はどのくらい進んでいるのか」をわかりやすく説明し、患者さまが自分の症状をきちんと理解できるようサポートしています。
もしリンパ浮腫のむくみに悩んでいる方、がん治療後で腕や脚の腫れが気になる方、自分の状態をしっかり「見える化」して知りたい方は、専門的な診療を受けることをおすすめします。大学病院レベルの治療を、通いやすい場所で受けられることは、患者さまにとって大きなメリットです。
リンパ浮腫は一人で悩み続けると、心まで疲れてしまいます。専門性が高く、話しやすくてあたたかいクリニックで、一度相談してみる価値は十分にあります。早期の適切な治療により、生活の質を大きく改善できる可能性があります。
著者
久米川 真治(くめかわ しんじ) 医師
ななほしクリニック 院長

形成外科・皮膚科・美容皮膚科を専門とする医師。
保険診療から自費診療まで幅広い臨床経験を有し、形成外科専門医として、疾患の正確な診断と患者負担の少ない治療を重視した診療を行っている。
本サイトでは、医師としての臨床経験と医学的根拠に基づき、症状・治療法・注意点について、一般の方にも理解しやすい医療情報の発信を行っている。




